みなさん、遺産を相続されたご経験はございますか?
相続税は、全ての財産にかかるわけではなく、課税される場合とならない場合があり、計算をした結果、相続税が0円になる場合があります。
0円であれば、税務署へ申告する必要はないと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、必要な場合もあります。
相続税が0円になった場合、注意する点について詳しく見ていきましょう。
相続税が0円となっても油断は禁物
相続された税額、つまり相続税が0円の場合でも税務署への申告が必要な場合があるので、相続税について深く理解しておくことが重要です。
相続税が0円だからと安心せず、知識をしっかり持って対処していきましょう。
相続税申告が必要な場合がある
相続された税額が0円になる場合でも申告が必要なのは、以下のような場合です。
・配偶者の税額軽減を受けて0円になる場合
・小規模宅地等の特例を受けて0円になる場合
上記の特例を受けるときに申告する理由は、相続された税額が0円でも”特例を受けますよ”と税務署へ明示するためです。
よって税務署への申告が必要かどうかは、大きく次の2点をもとに判定が可能です。
1.相続税の基礎控除以上の相続する遺産がある
相続税の基礎控除以下であれば、0円となり税務署に対して申告する必要はありません
2.基礎控除以上の遺産総額で、配偶者の税額軽減特例・小規模宅地の特例を受けると相続税が0円になる
上記でも説明したように特例を受けた結果、相続された税額が0円になりますが税務署への申告が必要です
相続税が0円の場合にチェックすること
相続税が0円の場合にチェックすることは、どんなことでしょうか?
2015年に相続税の基礎控除について法改正にて減額がされたため、課税対象者が2倍近く増加しました。
相続税に使える節税ワザは意外に多く、やり方を熟知していれば不必要な損をしなくて済むでしょう。
つまり何もせずにいると、回避できる方法があったのに多額の相続税を課せられて苦しむことになりますので、相続税に対する知識を増やしておくようにしましょう。
どのようにして相続税が0円になったか
相続税は、血縁関係者や配偶者がいれば誰にでも発生し、10人いれば10通りあります。
相続税・遺言・遺産分割対策など相続に関わる問題は多岐に渡ります。
特例や控除を使って相続の税額が0円になる場合もありますが、0円だからといって申告せずにいると税務署から後になって申告漏れではないかと連絡が入ることもあります。
相続の内容は一般的に非常に難しいため、これらの相続に関する対策は、専門家に相談したり、適切なアドバイスを受ける方が良いでしょう。
そして相続税が0円であっても申告が必要なのかどうかきちんと整理しておくことが重要です。
相続開始3年以内に贈与を受けていないか
「相続開始前3年以内の贈与によって取得した財産」にも相続税が課税されますが、これはあくまで相続ではなく贈与ですが、相続税の課税対象です。
そのため、贈与財産も含めた相続の金額が基礎控除を超える場合は、申告が必要です。
ただし、全ての贈与が相続財産として相続税の課税対象になるわけではありません。
非課税になる贈与として、子育て・結婚資金の一括贈与や、贈与税の配偶者控除の対象となる贈与、住宅取得資金等の贈与が挙げられます。
また、一定の条件を満たせば、相続税開始前の3年以内に該当しても相続税に加算されません。
相続税が0円で、申告が不要なケース
相続財産の課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば、原則は、相続税が0円なので、申告が必要ありません。
基礎控除
基礎控除とは、住民税や所得税を計算する際、一律で差し引かれる控除のことを指します。
基礎控除額は、以下の算式で算出します。
遺産に係る基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
「相続人」とは..
民法では、相続人の範囲と順位について次の通りに定められています。
1.被相続人の配偶者は、常に相続人となる
2.以下の人は、次の順序で配偶者とともに相続人である
第1順位:被相続人の子
※子が被相続人の相続開始以前に亡くなっているときなどは、孫が相続人となる
第2順位:被相続人に子や孫がいないときは、被相続人の父母
※父母が被相続人の相続開始以前に亡くなっているときなどは、被相続人の祖父母が相続人となる
第3順位:被相続人に子や孫、父母や祖父母も存在しないときは、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる
※兄弟姉妹が被相続人の相続開始以前に亡くなっているときなどは、被相続人のおい、めいが相続人となる
基礎控除額について
法定相続人数が1人(配偶者)
3,000万円+600万円×1人=3,600万円
法定相続人数が2人(配偶者+子ども1人)
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
法定相続人3人(配偶者+子ども2人)
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
相続人が1、2人…と増えるほど基礎控除額が大きくなっていきます。
この基礎控除額よりも上回った場合は、0円ではなく税金が発生し、下回った場合は、税金は0円となり発生しません。
そのため課税の対象となる株式や不動産など対象となるものは洗い出しておきましょう。
また、対象となるものは、プラスの財産だけはなく、亡くなった方の借金や未払金などの債務や、葬式費用については相続する財産から差し引かれます。
このように相続する資産の全てを正確にしておくことが大切であり、定相続人の人数によって計算された基礎控除額がポイントとなります。
基礎控除額以下になれば、相続の税額が0円で申告が不要となります。
その他、申告不要となるもの
その他には、障害者控除・未成年者控除などは、申告不要となります。
障害者控除とは、障害者に対する控除のことで、相続人が障害者の場合、85歳まで1年につき10万円が控除されます。(特別障害者の場合は20万円)
未成年者控除とは、相続人が未成年の場合に対する税額控除のことです。
20歳になるまで1年につき10万円が控除されます。
非課税0円となるので申告は不要です。
相続税が0円で、申告が必要なケース
相続税が0円になるケースは、基礎控除によるものだけではありません。
以下のように特例や控除の適用で0円の場合があります。
このような場合は、相続税が0円でも申告が必要なケースです。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減は、配偶者が相続した遺産が法定相続分以下または1億6000万円以下であれば相続税が0円となり課税されません。
実際、相続税には夫婦間で税額軽減される特例があり、相続遺産が1億6000万円以上あっても軽減される場合があります。
配偶者の税額軽減は税額の軽減効果が大きいですが、一方で、将来の二次相続を考えると安易に適用しない方がトータルで有利な場合もあるので注意しなければなりません。
これらの特例を受けるためには、税額が0円であっても絶対に申告する必要があります。
”配偶者の税額軽減”適用のための3つの要件
1.戸籍上の配偶者
2.申告期限までに遺産分割が完了済み
3.申告書を税務署に提出する
上記の3つの要件を満たした方は配偶者の税額軽減を受けられるため、相続税の申告期限(10か月以内)に以下の書類を揃え、税務署へ提出しなければなりません。
税務署への提出資料
1.被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(被相続人が亡くなってから10日を経過した日以後のもの)
2.遺言書の写し、または遺産分割協議書の写し
3.遺産分割協議書の写しを添付する時は、相続人全員の印鑑証明書も添付
相続税の申告期限は10か月です。
申告期限までに遺産分割ができなかった場合でも、申告期限は延長できません。
申告期限までに遺産分割ができない場合の手順
10ヶ月の申告期限までに、遺産分割が完了しない場合はどうすればよいでしょうか。
その場合は、以下の対策を行うことで、税額軽減の適用を受けることができます。
・「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、一度申告と納税を行う
・申告期限から3年以内に遺産分割できれば、配偶者の税額軽減を適用できる
⇒分割終了後、4ヶ月以内に更正の請求を行うことで、納め過ぎた税金は返金してもらうことができます。また申告期限が3年経過後も遺産分割ができない場合であって、以下のやむを得ない理由があれば、延長することもできます。
・訴訟が起こされた場合や和解・調停・審判が申し立てられた場合
・遺言で一定期間遺産分割が禁止の場合
⇒申告期限から3年を経過した日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出して、承認を得ます。申請書には、遺産が分割出来ない事由を記載後、遺言書や訴状など遺産分割できないことを証明する書類を添付します。
承認後、遺産分割できない事由が解消した場合、その日の翌日から4か月以内に遺産分割を行えば、配偶者の税額軽減が適用できます。
計算例
実際に配偶者の税額軽減を適用した場合の計算について確認してきましょう。
例えば、課税価格の合計額が1億円で、法定相続人が3人(配偶者、子A、子B)の場合は以下の通りに計算します。
手順1.課税遺産総額を求める
基礎控除額:3,000万円+(600万円×3(法定相続人)=4,800万円
課税遺産総額:遺産総額1億円ー基礎控除額4,800万円=5,200万円
手順2.法定相続分を各相続人に分配
配偶者:課税遺産総額5,200万円×法定相続分1/2=2,600万円
子A:課税遺産総額5,200万円×法定相続分1/4=1,300万円
子B:課税遺産総額5,200万円×法定相続分1/4=1,300万円
手順3.各相続人の仮の税額を計算し、総額を求める
配偶者の仮の税額:2,600万円×税率15%ー控除額50万円=340万円
子Aの仮の税額:1,300万円×税率15%ー控除額0円=145万円
子Bの仮の税額:1,300万円×税率15%ー控除額0円=145万円
相続税の総額:配偶者の仮の税額340万円+子Aの仮の税額145万円+子Bの仮の税額145万円=630万円
手順4.総額を実際の相続割合であん分
配偶者:8,000万円÷1億円×630万円=504万円
子A:1,000万円÷1億円×630万円=63万円
子A:1,000万円÷1億円×630万円=63万円
この事例では、「配偶者の税額軽減」を適用しているので、配偶者に相続税はかからないので配偶者は0円となります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、事業用または居住用の宅地等がある場合、一定の要件に基づき、評価額を減額し、相続税の課税価格に算入する制度です。
これは、土地を相続されたのであれば必ず使った方が良い特例です。
一緒に住んでいた土地を相続するとなんと…330㎡までは80%節税!
特例を受ける要件を満たせば、評価額が1億円の土地に対して80%減額されるので…
税額が減額されて2,000万円となり、とても節税効果が高いです。
この違いからも分かるように、相続税を0円にしたり、負担を軽く済ませたりすることができますね。
注意するポイントは、小規模宅地等の特例は、土地にだけ使えます。
また、建物は持家の場合は控除がなく、貸家であれば控除されるため合わせて使うと良いでしょう。
そうすれば、相続税の支払いを抑えられるので検討してみてはいかがでしょうか。
小規模宅地の特例が使える土地は、3つあります。
1.特定居住用宅地等(住宅として使っていた土地)
被相続人の自宅の土地が適用されます。
使うためには…
・被相続人の配偶者が土地を相続
・被相続人と同居していた人が土地を相続
・被相続人に配偶者・同居人もいない場合、3年間借家住まいの相続人が取得
2.特定事業用宅地等(事業で使っていた土地)
使うためには…
・相続開始前からその土地で事業を行っていた
・相続税の申告終了まで事業用の土地として利用
3.貸付事業用宅地等(賃貸していた土地)
使うためには…
・相続開始前から土地の貸付を行っている
・相続税の申告終了まで貸付を行っている
ただし、土地の面積や形など使い方も人によって異なるので、どのような場合に相続の特例が使えるのか、使えないのか、パターンもたくさんあるので専門書などでしっかりと調べておきましょう。
その他、申告が必要なもの
その他、相続に関して申告が必要なものは、特定計画山林の特例・農地の納税猶予の特例・寄付金控除です。
しかし、条件次第では納税の免除があります。
納税の申告が必要なのに、知らずに申告せずにいると、相続に関する申告期限を過ぎると税務署から申告漏れを指摘されることがあるので注意が必要です。
申告が必要な場合、被相続人が亡くなった日の翌日から10ケ月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署に相続税の申告書を提出しなければなりません。
その際、「マイナンバー」の記載が必要になります。
また、納付税額が算出される場合には、納税しなければなりません。
相続に関する申告書の提出期限に遅れて申告と納税をおこなった場合、原則、加算税と延滞税がかかるので注意してください。
まとめ
今回は、相続税が0円になった場合に注意することについてご紹介してきました。
相続税が0円でも税務署に申告が必要なケースと必要でないケースがあることが分かりましたね。
今後は、相続税が0円の場合、申告が必要か必要でないか、詳しくは、最寄りの税理士さんか税務署に問い合わせて確認する方がいいでしょう。
みなさんが、抱える相続関連の問題は、生前から早めに取り組んでいくことが重要ではないでしょうか?